ボスとのお別れ

突然のお誘い

「食事でも行こうか?ランチでも夜でもいいよ」

残り勤務日数もわずかとなったころ、ボスの当麻さんから社内メールが届いた。

有休消化とコロナウィルス騒動による在宅勤務で、当麻さんとは近頃ほとんど顔を合わせていなかった。

最後のあいさつどうしようかなと想いを巡らせていた自分にとって、このお誘いはまさに青天の霹靂。メールを見た瞬間腰を抜かした。

最終形態

当麻さんと私、ついにここまで来た。よっしゃーっ!!と言うのが素直な感想だった。

いくら仕事を一緒にしたとは言え、たくさんいる部下の、しかも一介のアシスタントである自分。個人的なイベントに誘ってくれるのは、異例中の異例だ。

理由は書いていなかった。もちろん送別の意味でのお誘いだろう。一緒に走ってきたプロジェクトの慰労。或いはホワイトデーのお返し。退職者には誰にでもそうしている。ただ単純に私と話したかった、、etc

楽しい悩み

いずれにしても当麻さんと私、2人でというのはあまりにも不自然で、最初は他のメンバーも誘うのかと思っていた。

それを提案されたらどう回避しようか悩んでいたけれど、それは杞憂に終わった。

紳士なのかセクハラ回避なのか私にランチか夜かの選択権を与えてくれて、私は迷わず夜を選択。

しかしいくら誘ってくれたからと言って、ボスにお店の段取りなんかを任せてしまってもいいものなのかまた悩む。

ひとまず日程が決まり、2人きりというのがわかり、そうこうしているうちに当日が迫っている。

だけど私は、肝心なことをまだ何も決められていない。

最後の最後

当麻さんと仕事以外の場で、しかも2人でゆっくり話せる機会なんて確実に最初で最後。そんな機会がある社員もごくわずか。そして、きっともう二度と会えない。

ただただ楽しく飲むのもいいだろう。だけど私は、伝えたい想いがある。

今の職場に残ることが許されなかった、悔しい気持ち。

残りたかった最大の理由。当麻さんと一緒にいたかった、一緒に走ってきたプロジェクトを、ずっと一緒にやっていたかった、その気持ち。

今まで一緒にいさせてくれて、楽しかったこと。幸せだったこと。当麻さんを大好きになったこと。

伝えたい気持ち

ずっと考えていた。私の、当麻さんに対するこの気持ちの正体。尊敬。親愛。友情。愛情。そのどれにも当てはまるようで、どれにも当てはまらないようにも思える。

新しい生活に何の不安もなく、楽しみでいっぱいな一方、当麻さんが私の生活から、私の人生からいなくなってしまう。それがただ、さみしくて、胸が締めつけられる。

さみしい。つらい。さみしい。つらい。さみしい。さみしい。さみしい。つらい。伝えたい気持ちは結局、これに尽きるのか。

だけどもう、終わりだ。

本当に、終わり。

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