運命の会議
私、朋子さん、当麻さん。緊張の面持ちで3人が会議室に腰を落ち着けていた。朋子さんが、ファシリテートをして、私に発言を促す。
私はただの事務アシスタントで、当麻さんは組織のボス。仕事で2人になることはよくあるけれど、こうして私の希望で当麻さんと対峙するのは初めてのことだった。
自分の希望はすでに朋子さんから当麻さんへ伝わっていることは知っていたし、その回答も私は知っていた。台本をなぞるように私は伝えた。
「来年の3月で契約が終わってしまうけれど、自分はまだ残りたい。まだやりたいことがあるし、やれることがあると思っています。」
内向的な性格で、自分の気持ちを言ったり主張するのが苦手な自分にしてはよく言えたと思う。
当麻さんは私の発言をちゃんと聞いてくれて、それを受けて、自分にできること、できないことを誠実に伝えてくれた。朋子さんも見守ってくれていた。
結論
会社の規則があり、これまでのように事務アシスタントとして継続すること、正規社員として登用することは、自分の権限ではできない。
だけどもしチャレンジしたい気持ちがあるのなら、事務アシスタントではなく、最前線の職種でやってみないか。それなら自分にほとんどの人事権があるし、全面的にバックアップできる。
これまで組織にたくさん貢献してきてくれたし、理解も早い。個人的にも助かっている。やる気さえあればサポートする。だけど人生を左右する選択だし、プレッシャーの大きい仕事だから安易に勧めることはできない。よく考えてみてほしい。
能力
泣きそうなくらいうれしかった。これまでもたまに仕事でほめてもらえることはあったけれど、ここまで全面的に認めてもらえているとは思ってもいなかった。
考えたことがなかったのかと言われると嘘になる。アシスタントではなく、最前線の職種で働くこと。だけど考えるたびに否定しかできなかった。
アシスタントでも毎日精一杯。スキルもバックグラウンドも根性もない。最前線でやっている現場の人たちのサポートをして役に立てることが楽しくて、今の役割が性に合っていた。お金はそれほど稼げなくてもそれほど責任もなく、ストレスもほとんどない。
「自分にそんな能力はありません」と正直に伝えたけれど、能力の問題はいったん置いて、やる気の面ではどうなのか、考えてみてほしい、というところで面談は終わった。
まだ慌てる時期ではない。とことん考えて、考え抜く。当麻さんの言うとおり、人生の選択、人生の岐路だ。今後、自分がどう生きるのか、問われている。