運命のとき
誰からも認めてもらえるような自分にならなきゃと決意を新たにした矢先、朋子さんから今週の予定を尋ねられた。私の進退について、ボスの当麻さんと直接面談してほしいと言われた。
私が契約期間を越えて会社に残ることは難しく、ボスから正式に説明を聞けるように計らってくれたんだなということが、朋子さんの様子から伝わった。朋子さんも同席してくれると言う。
自分の契約期間のことで、当麻さんと直接話をしたことはない。直接話すような筋ではないからだ。
感謝の気持ち
筋ではない上に当麻さんも朋子さんも多忙を極めているのに、日中、自分のために時間を作ってくれる。本当にありがたく、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
おそらく最初で最後の面談。私は何を伝えればいいんだろう。2人が自分のために奔走してくれたんだろうことは想像がつく。私が残りたいと強く思っていることも知ってくれている。
その上で私に最終通告をしなければならない。2人にそんな義務はない。然るべき役割の人に任せれば済む。完全なる2人の厚意だ。
それに思い至ったとき、自分が伝えたいことはたったひとつ、感謝の気持ちだけだった。
宝物
今まで、特にこの1年、辞めさせられることがわかっていながらがんばってこられたのは、2人のおかげと言っても過言ではない。
2人が自分を信頼してくれて、一緒に仕事をさせてくれた。普通なら経験できないような、刺激的で新しい世界だった。大変だったけど、毎日楽しかった。
今の仕事を好きでいられたのは、当麻さんと朋子さんのことが大好きで、2人とする仕事が大好きだったからなんだと改めて思った。
やりたかったこと
心残りはいっぱいある。当麻さんと2人でやってきたプロジェクトを最後までやりたい。始まったばかりの朋子さんのプロジェクトを軌道に乗せたい。1年以上関わってるプロジェクトにも愛着がある。
何より当麻さんと朋子さん、リーダーシップが強すぎて時に暴走したり、忙しすぎて立ち止まれない、時に部下から誤解されてしまう。そんな2人をこれからも側で支えていきたかった。2人の力になりたかった。
2人と仕事ができなくなること、会えなくなること、それが今は一番辛い。
正々堂々
心残りはたくさんあるけれど、後悔はない。こんな日がやって来ることは想定していたから、毎日大事に、必死に、一生懸命、過ごした。
契約期間を越えて残りたいというのは自分のわがままでしかなく、誰に対しても恨みはない。すべて自分が選んだ結果だ。
面談では素直に自分の気持ちを伝えようと思う。感謝の気持ちとさみしい気持ち。そして、最後まで全力でやるということ。私のわがままに真剣に向き合ってくれた。自分は幸せ者だなと心から思う。