2人きりのプロジェクト
職場のボスである当麻さんとのプロジェクトが始まって、濃厚な日々を過ごしている。
このプロジェクトのメンバーは当麻さんと私、社外の数人がたまにサポートで入る。ほぼ当麻さんとの2人プロジェクト。今年いっぱい続く、長丁場。
組織のトップである当麻さんと、ベテランの域にいるとはいえ一介のアシスタント。果たしてついていけるのか。当麻さんの役にたてるのか、不安からのスタート。
無我夢中
7月初旬から始まって夏休みまでの約1ヶ月。怒涛のように過ぎていって、毎日何をしていたのか覚えていない。
とにかく毎日必死だった。私にとって、当麻さんの要求は高い。専門知識を噛み砕いて説明してくれるけれど、何度もポカーンとする私。当麻さんのプロジェクト以外にも仕事はあって、普段の倍速でタスクをこなす。
夏休みの前半に自分で整理してやっと落ち着いた。明日、当麻さんがその成果を発表するために現場へ行く日なので、あれこれと思い返していた。
大変で、慣れないことばかり。当麻さんと仕事はしたことあったけれど、ランチをしながら打ち合わせしたり、雑談したり、初めてのことばかりで緊張の連続だった。
わかったこと
いろいろ思って、最後に思った。やっぱり私は当麻さんのことが、男性として好きなんだろう。憧れと言ってもいい。
既婚者なので何がどうなるものでもないけれど。好きになっちゃいけない人を好きになってしまう、私の悪いクセ。否定する気はない。ただ静かにその気持ちを受け入れる。
思えばこの1ヶ月密に一緒に仕事をして、当麻さんを好きにならずにはいられなかった。
近づく距離
私にとっては立場的に雲の上の存在で、一般社員も気軽には話しかけられないポジションの人。だけど当麻さんは少しも偉そうにしないし、一介のアシスタントにも謙虚で気さくで、敬意を示してくれる。
一方的に指示命令したっていい立場なのに。すごくやさしい。私がいつ相談に行っても、絶対に”忙しいから後にして”と言わない。
忙しい人なのは私が1番よく知っている。出来る限り落ち着いたタイミングを見計らってはいるけれど、絶対にその場で話を聞いてくれる。
好きになる
インテリでタフ。ストイック。勉強家で努力家で。堂々としていて。だけど謙虚で。仕事が好きで。いつも楽しそうで。自分大好き。時々周りを振り回して困らせて。子どもっぽいところがあって。気さくで。女好きで。好き嫌い激しくて。
“SUITS”のハーヴィーに雰囲気が似ている。若い頃はハーヴィーだったんじゃないかな。もちろんスーツは毎日、ハーヴィーばりに素敵に着こなしている。
ドラマ”SUITS”より
頑張りたい
ある日、会議室に2人で籠ってランチミーティングをしていた。いつもに増して忙しい時期。
「渚さんに甘えっぱなしで、1人だったらこのプロジェクト成立してなかったよ、ありがとう」と言ってくれた。
うれしかった。管理職のテクニックだったとしても、すごくうれしかった。
もっと頑張って、もっと役にたちたいと思った。もっと当麻さんに近づきたい。認められたい。当麻さんを知りたい。私を知ってほしいと思った。
もっと勉強しないと。当麻さんとの会話についていきたい。教えられるだけじゃなくて、提案したり、的を得た意見を言いたい。当麻さんと同じ目線を持って、同じものを同じように感じたい。
プロジェクトの資料を読み込む。簿記の勉強を頑張る。日経新聞を毎日読む。自分に今出来る限りのこと、全力で頑張りたい。自分のために。当麻さんのために。