異変
これまでに何度か登場した年下男子(30代前半・既婚者)の山口くん。この半年ほど、かなり密に一緒に仕事をした。
大きなプロジェクトが始まって、山口くんはコアメンバーだった。途中で上司が倒れたりして、二人で励まし合って乗りきってきた。飲みに行く機会も多かったし、ランチにも行っていた。
立場的には山口くんの方が上司になる。山口くんとの仕事は楽しかった。若いのによくできた人で、指示も的確だし誰にでも親切でコミュニケーション能力も抜群。上司にもかわいがられていた。
突然のこと
昨日の飲み会終り。
「適当にタクシー拾うから~」って帰ろうとしたら、それを制してタクシーつかまえに御堂筋に飛び出して行ってくれた男子にときめいた。— 渚 (@y_nagisa_o) November 23, 2018
ある日の飲み会帰り、こんなことがあった。終電の早い人から順次帰宅して、山口くんの終電間際まで二人で飲んでいた。私はもともとタクシーで帰るつもりだったから、山口くんの終電に合わせてお店を出た。
これまでだったら「それじゃ、お疲れさまでした!」とさらっとサヨナラしていたのに、突然タクシーをつかまえに大通りに飛び出して行った山口くんの姿に呆気に取られた。酔っぱらってるんだろうか?
2,3分も歩けば路肩にいくらでもタクシーは停車している。終電の時間が迫っているのに、私をタクシーに乗せて、見送ってくれた。少しときめきつつも、どうしたんだろう!?という驚きが大きかった。
再び
週が明けてまた仕事が始まって、そんなこともすっかり忘れていた1週間後の金曜日。
私は残業になり山口くんは遅い時間に外出先から戻ってきた。外出続きだった山口くんと顔を合わせたのは1週間ぶりだった。
フリーアドレスでがらんとした社内。私のすぐ目の前の席に座って残務処理を始める。1週間ぶりだったのであれこれ話をする。
自分の仕事が片付いて山口くんに声をかけると、山口くんも帰ると言う。駅まで5分程度、二人で肩を並べてイルミネーションの中を歩く。
私と山口くんはまったくの逆方向の電車だった。駅に着くと、ちょうど山口くんの乗る方向の電車が来たところ。山口くんは電車に乗る様子を見せない。
とまどい
まるで電車なんて来ていない様子であれこれ話している。私が乗る電車を待っていてくれているのか、まだ話したりないのか、おそらくその両方だと思われるけれど、山口くんは私が乗る電車が来るまでホームで待っていてくれた。私も山口くんのするままにまかせていた。
コアタイムなので私が乗る方向の電車が来てすぐ、山口くんが乗る方向の電車もホームに入ってくるのが見える。
山口くんはそれにも気をとめず、突然黙り込んだ。そして私の乗る電車がホームに着くやいなや突然「来週、頑張ってくださいね」とおもむろに伝えてきた。
私はまず急に黙り込んだ山口くんにとまどっていて、その言葉にさらに驚いた。普段はだいたい「お疲れさまでした」とか「今週も大変でしたね」とかお互いを労い合っていたのに、突如、一方的な励ましの言葉。なんて返していいのかわからなかった。
ちなみに来週、特別にがんばるようなことは自分には何もない。残業していた私を気遣ってくれたのか、来週はまた外出続きで一緒に仕事はできないから励ましてくれたのか、とにかく普段の山口くんとは様子が違っていた。
さらにとまどい
自分でも驚いた顔をしたと思う。とっさに返事ができなくて自分の乗る電車の扉が開いたことにも気がつかなかった。
山口くんが‘電車来ましたよ’と目で合図をくれる。私は我にかえって「ありがとう」と伝えて満員電車に乗り込む。山口くんは軽くうなづいただけで何も言わなかった。
電車に乗り込む自分の背中に視線を感じる。満員電車に乗り込んで、山口くんの方を見る。肩越しには山口くんの乗るはずの電車の扉も開いているのが見える。
まるでそのホームが私の乗る電車の片側車線のように、私の方をじっと見ている。扉が閉まると同時に山口くんに手を振った。山口くんは軽く会釈したように見えた。
不安
帰りの電車の中で、いつもと違う山口くんの様子に不安でいっぱいになった。何か話したいことがあったんだろうか。そう言えば先週の飲み会帰りも、まだ話したりなかったのかもしれないと思い至った。
この半年ほどで山口くんとはかなり打ち解けられたと思っている。仕事面で私にできることは限られているから、山口くんの話を聞くことも仕事の一部と思って接してきた。
特に上司が1ヶ月間休職したこともあって、ストレスをためないように、山口くんまで倒れてしまわないように細心の注意を向けていたつもりだった。
最近は外出続きであまり話もできていなかった。何かあったんだろうか。しかし来週も山口くんは外出続きで様子がわからない。
近々ゆっくり話す機会を作らないと。やっと上司が復帰したというのに、、心配事の絶えないチームに入ってしまった。