長い長い1ヶ月
9月後半から休職していた職場の上司が復帰した。
10月最後の出勤日、私と山口くんはお互い、一番したい話題を避けていた。上司の休職はとりあえず1ヶ月となっていて、11月から出社するのかしないのか。私と山口くんにとっては死活問題と言ってもいい。
11月に出社しなければ、そのままずるずる休職、退職、という流れになるような空気を感じていた。
上司が休職してから1ヶ月、そう思うと短いと言える。だけど私と山口くんにとっては長い長い1ヶ月だった。来るあてのない人を待つ1ヶ月は長い。プロジェクトはどんどん進んでいく。
明日は晴れるか
プロジェクトの大黒柱だった上司がいなくなって、核たるものがなく、ふわふわと、迫り来る目の前の日々をなんとか過ごしていた。
私も山口くんも不安を抱えつつ励まし合って日々の仕事をこなしていった。この1ヶ月、何をしていたのか思い出せないくらい仕事に没頭して、上司不在の現実から目を背けていた。
11月最初の日、出社すると上司がいた。少し痩せたような、それでいてどこかスッキリと晴れた顔つき。背が高くガッチリとした印象は変わっていない。
上司の姿を見つけて思わずまた泣きそうになった。駆け寄って思いきり抱きつきたい衝動にかられた。
外出していた山口くんにすぐにチャットツールで連絡を入れる。’上司が出社したよ”いつ戻る?早く戻ってきて’
出入りが激しくてフリーアドレスのため、1ヶ月程度不在にしていたからといって違和感のないのが今の職場の良いところだ。
元気な姿
それでも上司が休職していたのは身近な人は知っていたので、次々と上司のところへ声をかけに人がやってくる。
夕方になって、やっと山口くんが戻ってきた。上司と顔を合わせているのを見て、無事にこの日が来て良かったと心から思った。
上司と再会できたのも束の間、次の心配事があった。上司がプロジェクトに戻ってきてくれるのか、私と山口くんはまたお互いに同じ不安を抱えていた。
1~2週間は社内研修を受けたり通院のため、プロジェクトに戻るのかどうかは保留状態になった。
私は正直、上司が職場に戻ってきてくれただけで満足していて、プロジェクトに戻るかどうかはどちらでもよくなっていた。
また気分改めて新しいプロジェクトでやり直す方が、上司にとって良いんじゃないかという思いがだんだん強くなっていた。今ならそれが可能だ。
これから
上司は心療内科に通院している。これからどう接すればいいのか考えた。特別に気を遣いすぎるのはよくないだろうというのはわかる。答えは出ていない。
無理をさせないように見守ること。できるだけ上司の話を聞く体制を自分の中で整えようと、そんな決意を胸に秘めた頃、上司が私のところへやってきた。
「プロジェクトに戻ることになったよ」
うれしいけれど心配な気持ちもあって両手を挙げてよろこべなかった。
「本当にいいんですか?」
「なんとかなるでしょ」
即答する上司。無理していないだろうか、と上司の顔を見た。迷いはないように見えた。決めたなら、私は今まで通り全力でサポートするだけだ。
正解かどうかはわからない。だけどこの選択を正解にするのも失敗にするのも、これからの自分たち次第だ。いいチームにできるだろうか。いいチームにしたいと思う。
「おかえりなさい」
心を込めて、上司に伝えた。