自制心との戦い
秘かにときめいている既婚上司の高橋さん。付かず離れずの距離を保ちたいと思い自制の毎日。それでもやっぱり話したい、仲良くなりたい気持ちは日に日に大きくなるばかり。
すぐ近くの席に座るのは辞めたものの、1日1回はどうしても話したい。その気持ちには素直でありたいし、それくらいは許してほしい、、
仕事にかこつけてなんやかんやと話しかける。高橋さんからは相変わらずあまり話しかけてはくれないけれど、話しかけるといろいろ話してくれて、私はもっぱら聞き役。
ちょっとしたお誘い
近々、外部で講演会の仕事がある会計士の高橋さん。「準備はどうですか?」と聞くと、「後でリハーサルするから暇だったら聴きにきてよ」と言ってくれる。
その日は他のプロジェクトに入っていて正直めちゃくちゃ忙しかったけれど、こんな機会はめったにない。しかも高橋さんから誘ってくれて、、行くしかないでしょ!
幸いにもジョインする予定のプロジェクトのリーダーは不在。こそこそと別室で行われているリハーサルの見学に行く。
高橋さんともう一人別の会計士の男性と3人きりのリハーサル。講演会の内容は会計に関する専門的な話で、簿記2級の勉強を始めたばかりの私にはちんぷんかんぷん。
わかったようなわからないような、たまにわかったようなほとんど意味不明のような、とりあえず聴衆役に徹すことにした私。
高橋さんの番になり、無意味にどきどきする。普段は気さくなお兄ちゃんと言う感じだけれど、外向きの顔を見ていつも以上にかっこよくて見とれてしまう。
スライドを映しながら解説を進める高橋さん。私はいつしか解説スライドを見るよりも、高橋さんの話してる姿ばかりを見るようになっていた。
見つめ合う
たんたんと話を進める高橋さんが、ときどき聴衆の方を見る。聴衆イコール私だけ。私はもはや解説も聞かず高橋さんをぼーっと見つめていた。
時折、ふと聴衆役の私に視線を投げてくる高橋さんとガッチリと目が合う。その距離1~2メートル。スライドではなく高橋さんを見てることがバレる。
高橋さんは私から視線を離そうとしない。私も離さない。見つめ合う二人。変に思われただろうか?
これが仕事じゃなかったらどれだけ幸せな気分になるだろうと思ってしまう自分は、かなり重症の域に来てしまっているんだと思う。
リハーサル終了後に感想を聞かれる。褒めちぎるよりもハッキリと意見を言った方が歓迎される社風。
オブラートに包む言い方も忘れて、生意気にも会計士の男性二人に「詰め込み過ぎですね」「たんたんとし過ぎですね」とストレートにダメだししてしまう。
高橋さんを見つめ過ぎて、素敵だなとぼーっとしていて他のことには一切気が回らなかった。後でちゃんとフォロー入れとかなきゃな。