イチブトゼンブ

私には彼が今までに出逢った誰よりも
きらきらして見えていた。

自由で大きな人だった。

厳しくて優しくて。

強くて弱くてあたたかい人だった。

孤独な人だった。
そして孤独を怖れていないように見えた。

一見すると人当たりがよく
仲間も多くて誰にでも好かれる

どんな人とでも仲良くなれる
明るくて朗らかな人だったけれど。

だけど彼の根本は一匹狼で
孤独な雰囲気をいつもまとっていた。

2~3日彼と会わない期間があると

どこかへ行ってしまいそうな
不安に襲われていた。

目を離した隙に大きな波に乗って

水平線の向こうに
消えてしまいそうな気がしていた。

私は彼の絶対的な存在になりたかった。

それは恋人なのか家族なのか友達なのか
結局その何にもなれなかったけれど

心も体も一心同体のような

彼にとっての海のような
存在になりたかった。

離れてから彼のことを
想ってしまうことが辛くて

彼のことを嫌いになって
忘れてしまいたくて

彼の欠点と思われることを
たくさんたくさん考えた。

ほとんど悪口みたいな
八つ当たりみたいな

彼の欠点と思われる性格的な短所や
社会的なリスクを挙げてみたけれど

そのどれもが裏を返せば
私が好きになった彼そのものだった。

彼の嫌なところが良くなったとしたら
それは彼じゃない。

彼の嫌なところも
私が好きになった彼の一部で

それが彼の全部だった。

どうやっても彼のことを
嫌いになることはできない。

無関心になることもできない。

好きでいることしかできない。

海で彼のことを考えていても
結局いつもその気持ちがループして

いつまでも海から離れられないでいた。

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